音楽の旅

音楽は様々なところへ私を連れて行ってくれる。新しい場所、文化、言葉、人々。その出会いの中でまたインスピレーションを受け、音楽を書く。
舞台音楽や展覧会などの音楽を作ることが多いため、曲を作って終わりではなく、実際の会場でどのように鳴らすか、音量やスピーカーの位置などを決めるところまでを担当する。ノートパソコンがあれば大体の作曲ができるので、稽古場、劇場、ホテルが仕事場になる。
今年の秋は、パリとメキシコシティ、二つの国立劇場で仕事をする機会に恵まれた。前者は劇作家・演出家の野田秀樹氏率いるNODA・MAP「贋作 桜の森の満開の下」、後者はベルギー在住の振付家ダミアン・ジャレのダンス作品「Omphalos(オンファロス)」(音楽は坂本龍一氏と共同制作)の上演である。

「桜の森~」は野田氏の代表作であり、これまで何度も再演されてきた名作である。昨年は歌舞伎座にて歌舞伎版が上演され、このときも作曲で参加したがメインテーマの音楽は初演からの選曲を踏襲するものであった。今年は音楽を全て一新して、新たに曲を書き下ろした。本作は十一月下旬まで東京芸術劇場で上演されている。
これまで演劇とそれほど関わりはなかったが、野田作品との出会いによって、絶え間なく溢れる言葉とともに舞台の上だけで繰り広げられる世界、まさに演劇空間の、深く、ときには恐ろしくもある魅力を知った。言葉に音楽が重なっていく快感はたまらない。また稽古を終えるときに「今日はこれでトリます」という言い方をするが、この一つのセンテンスさえ私には新鮮だった。

一方、「オンファロス」は長年行きたかったギリシャへの旅を実現させてくれた。アテネより北にあるデルフォイの神殿にある石「オンファロス」を見に行ったのだ。ギリシャ神話によると、ゼウスが放った二羽の鷹が出会ったところを世界の中心として、この石が置かれている。ギリシャ語では「へそ」という意味らしい。デルフォイへの道中、オイディプスが実の父を知らずに殺してしまった場所の近くをバスで通ったが、神話の世界と自分が生きる現代世界が陸続きであるような気がして感動した。

ダンス作品「オンファロス」はメキシコの国立ダンスカンパニーの二十人のダンサーがパフォーマンスを繰り広げる。「メキシコ」は先住民族の言葉で「月のへそ」を意味するらしい。メキシコの人たちはとにかく優しく、毎日タコスやコーヒー、時には非常に強いお酒のメスカルをご馳走してくれた。メキシコシティは標高約二千三百メートルに位置するため、やや動悸を感じ、緊張もあって苦しいときもあったが、彼らの明るい性格と街の建物の強くて美しい色彩によって元気づけられた。

今回もモバイルレコーダーを持参していろいろな音を録音した。これらの音を使って新しい音楽を作り、また旅に出るのを楽しみにしている。

 

2018年11月13日掲載