Marihiko Hara《Dessin》
Inspired by Narashige Koide (1887-1931)
12” Vinyl x 2
12mins / 12mins
絵画に音をつけるとはどういうことか。学芸員の大槻晃実さんから画家小出楢重の作品をモチーフに何か作品を作れないかというお話をもらってから、ずっとこのことについて考えていた。映像に音楽をつけるのでもない、インスタレーションのように空間の一部として音を置くのともまた違う。あれこれ悩み、音楽を「つける」のではなくて、彼のために作った音楽を彼の作品の隣で鳴らせてみようと思った。少しでも小出楢重のことを詳しく知った上で、彼の輪郭を素描(デッサン)するように。
彼の描いた作品をじっくり見て、随筆から彼のことばを聞く。伝記を通して彼の姿を遠くから眺め、しばらく彼のことを考えて過ごした。そして彼の存在が近くになったように感じられたときにピアノの即興を録音した。
絵画に対して専門的な言葉を私は持ち得ていないけれど、《雪の市街風景》の灰色の街は縦方向に、奥に向かっていくように動的であり、一方《海辺風景》は水平方向に落ち着いた印象を受けた。レコードのA面にはピアノの即興、B面には芦屋の海の音などのフィールドレコーディングと電子音が編み込まれている。2台のプレーヤーでA面、B面を同時再生すると毎回少しずつずれて音が重なる。
そのほか印象的だったのは、小出が海外旅行した際に家族に送った手紙に描かれたスケッチである。ユーモアと旅の興奮が混ざり合い、微笑ましい。以前のように簡単に旅に出られない今、小出の手紙はまるで私たちに宛てられたようにも感じられる。
原 摩利彦